古代人は、歯の手入れはどうしていた?!
私たちは毎日、当たり前のように歯磨き粉で歯を磨いています。
あっ、今、つい「歯磨き粉」という名前を使いましたが、今はどなたも「練り歯磨き」をお使いですよね。「歯磨き粉」と言ってしまうのは、日本では江戸時代から「歯磨き粉」が使われていた歴史があるからかもしれません。昭和半ばくらいまでは、「歯磨き粉」も珍しくはありませんでした。
1.太古の人類も歯周病に苦しんでいた!
そもそも人間は、いつ頃から歯の痛みに悩んでいたのでしょうか?
答えはなんと「ヒト(ホモ・サピエンス=現生人類)」以前からなんです。人類は、もう30万年以上も前から虫歯や歯周病とともに生きてきたのですね。
旧石器時代の早期ネアンデルタール人の骨にも、虫歯や歯周病の痕跡が認められます。また、最近では、猿人(オーストラロピテクス)の骨にも歯周病が見つかりました。猿と猿人の違いは、直立歩行と火の使用ともいわれます。まさに火を使うようになって以来、人類は歯周病に悩まされ続けているのです。火を通した柔らかい食べ物を食べることが習慣になると、歯周病にかかるようになってしまったのですね。
2.動物も歯周病になる?
皆さまのおうちに年老いたイヌやネコがいましたら、ちょっと口の中を見てみましょう。
飼い主と同じものを食べたり甘いものが好きなペットは、歯周病にかかって歯の周りから出血していたり、歯がグラグラしているかもしれません。動物でも、繊維質の少ない柔らかいものを食べる習慣によって、歯周病になるのです。
3.クレオパトラも虫歯予防をしていた?!
古代エジプトのメレンプター王(紀元前13世紀)のミイラのX線写真からは、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けてなくなり歯が抜けてしまっていたり、歯がグラグラになっていた様子が認められます。この王様は歯周病に悩まされ、歯周病で歯を失ったのでしょう。
いろいろな古代人の歯周病の状態を比較すると、身分の高い人ほど病状がひどいことから、食べ物に恵まれ美食をしていた人ほど、歯周病にかかっていたと考えられます。つまり歯周病は食習慣に影響されていたのです。
古代エジプトでは、「練り歯磨き」が使われていたことがパピルスに詳しく記載されています。古代エジプトの遺跡の埋葬品からは、爪楊枝と思われるものが発見されていますから、当時の絶世の美女クレオパトラもきっと歯磨き剤をつけて歯の手入れをしていたことでしょう。
<練り歯磨きの処方>
ビンロウ樹の実(タンニン)、緑粘土(ナイル川氾濫のときに運ばれた土)、蜂蜜、
火打石、緑錆
研磨剤や細菌抑制効果、殺菌作用のあるものを組み合わせて歯の手入れをしていたのですね。
4.縄文時代や弥生時代の人たちは?
日本における縄文時代後期から弥生時代前期には、健康な歯を抜くという風習があったそうです。その理由としては、
① 成人になるための儀式
② 結婚
③ 喪に服す
④ 死者のよみがえりを願って
⑤ 悪霊を追い払う
などが挙げられます。その際、主に上あごの前歯や犬歯を抜いたそうですが、健康な歯を少しでも残そうという現代では考えられませんね。麻酔もなかった当時、さぞかし痛かったのではないでしょうか!?当時の遺跡からは、爪楊枝のようなものが発掘されるなど、歯を磨いていたと思われる痕跡が見つかっています。
5.古代ローマ人は「尿」で歯を磨いていた!?
古代ローマの貴族は朝からパンやチーズ、牛乳、オリーブなどの高級食材を食べ、朝食後には念入りに歯を磨いたようです。
歯磨き剤は、ネズミの頭蓋骨やバラを粉末にしたものだったようですが、身分の高い皇族の人たちは、当時大変貴重だった「塩」を歯磨き粉として使用した記録もあります。
また、人の「尿」を原料にした歯磨きも用いられていたといいますから驚きです。
確かに現代の歯科でも尿素は歯の美白に使われますから、古代ローマ人もそのことを知っていたのかもしれません。そして、なぜか「ポルトガル人の尿」が最も歯に良いと信じられていて、大金を使ってポルトガルから尿を輸入していたとのことです。
はるか古代から現代の私たちまで、歯磨き・歯の手入れにはいろいろ苦心してきた歴史がありますね。現代の私たちは、歯科医や優れた歯磨き剤に恵まれていますから、日々の歯の手入れを怠らず、健康な歯で暮らしていきたいものです。