正しい歯磨きの仕方とは?

2023.07.04

歯磨きは、ただ歯ブラシで磨いているだけでは正しく磨けているということにはなりません。皆さんの歯磨きの仕方は大丈夫でしょうか?歯磨きとは、歯の表面の汚れである食べかすや歯垢(プラーク)、虫歯菌などを取り除くクリーニング(清掃)と歯茎のマッサージをすることです。効果的な歯磨きの習慣を身につけるためには、正しい知識と方法が必要です。

〈歯磨きの目的と効果〉

歯磨きの目的は、大きく分けて次の2つがあります。

●う蝕(うしょく:虫歯)の予防

●歯周病の予防

この2つの目的を果たすことで、お口の中の健康を増進し、その状態を維持します。その結果、お口の働きを十分に発揮出来るようになります。お口の役割には、飲食、話す、呼吸の他にも、人が健康で生きていくために必要な機能がたくさんあります。正しい歯磨きでお口の中の健康を保つことは、健康年齢(自立した生活ができる)を延ばして認知症の予防やダイエットにも効果があります。その他にも、虫歯の予防、初期虫歯を治す、歯肉炎を治す、歯周病の予防と治療、口臭を防ぐ、インフルエンザなど感染症の予防効果があるといわれています。

〈歯磨き粉に含まれる主な成分と成分の働き〉

歯磨き粉は薬機法により「化粧品」と「医薬部外品」の2種類に分類されます。基本成分だけでできているものを「化粧品」といい基本成分に薬用成分が加えられているものを「医薬部外品」といいます。日本で市販されている歯磨き粉の90%は「医薬部外品」です。歯磨き粉の裏面には必ず「成分」という欄があり、いくつかの<基本成分>と<薬用成分>が書かれています。これから歯磨き粉に配合されている代表的な基本成分とその役割、求める効果によって配合される薬用成分とその役割についてご紹介します。

<基本成分>…歯磨き粉の裏面に記載あり

●研磨剤・清掃剤

働き:歯の表面を傷つけることなく、歯垢(プラーク)や着色汚れ(ステイン)などの歯の表面の汚れを落とす

主成分:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、無水ケイ酸、水酸化アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)

●湿潤剤

働き:研磨剤に適度な湿潤性を与え脱水および乾燥を防ぎ、歯磨き粉をペースト状に維持させる

主成分:ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール

●発泡剤

働き:口中に歯磨き粉を拡散させて洗浄し、かつ歯垢(プラーク)を乳化させて汚れを除去しやすくする

主成分:ラウリル硫酸ナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸塩、ラウロイルサルコシンソーダ、ショ糖脂肪酸エステル

●粘結剤・結合剤

働き:歯磨き粉の液体成分と固体成分の分離を防ぐ、保型性を与え適度の粘性を与える

主成分:カルボキシメチルセルロスナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、

●香味剤

働き:香味の調和を図る、爽快感と香りをつけ、歯磨き粉を使いやすくする

主成分:香料、スペアミント、シナモン、ウインターグリーン、メントール、サッカリンナトリウム

●防腐剤

働き:歯磨き粉の変質を防ぎ使用期間を長くする

主成分:パラベン、安息香酸ナトリウム

<薬効成分>…下記のうち、1つか2つ含まれていることが多い

●う蝕(虫歯)予防

主成分:モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム

●歯肉炎予防

主成分:塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン

●歯周病(歯肉炎・歯周炎)予防

主成分:塩化クロルヘキシジン、トラネキサム酸、グリチルリチン酸ジカリウム、β-グリチルリチン酸、ビタミンE、塩化ナトリウム

●歯垢(プラーク)の分解

主成分:デキストラナーゼ

●歯石沈着防止

主成分:ポリリン酸ナトリウム

●知覚過敏抑制

主成分:乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、ナノ粒子ハイドロキシアパタイト

●タバコのヤニ除去

主成分:ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン

歯磨き粉には歯垢(プラーク)の除去だけでなく、様々な効果があります。フッ素で再石灰化を促す効果や着色汚れ(ステイン)を落とす効果など、歯磨き粉に含まれる主な成分と成分の働きを知り、自分に合った歯磨き粉を選びましょう。

〈歯磨き粉に含まれるアレルギー物質〉

●グルコン酸クロルヘキシジン

消毒薬としても使われる成分、アレルギーによって、蕁麻疹や息苦しさ等の症状が現れることがある。

●リカルデント

牛乳由来成分、牛乳アレルギーの方は使用不可。

●パラベン

皮膚炎などのアレルギー症状を引き起こす可能性がある。

●その他のアレルギー物質

・安息香酸ナトリウム(殺菌剤)

・プロピレングリコール(保湿剤)

・コカミドプロピルベタイン(乳化剤)

・フッ化第一スズ(錫由来なので金属アレルギーの方は注意が必要)

・香味料

・ナチュラルオイル(ティーツリーオイルなど)

・ハーブ(オーガニック歯磨き粉に含まれる自然由来の成分にも注意が必要)

歯磨き粉にグルコン酸クロルヘキシジンが成分として含まれている場合は、殺菌力と殺菌力の持続という面での効果はありますが、場合によってはアレルギー症状を起こすこともあるので、以前に薬によってアレルギー症状が出たことがないかを確認する必要があります。 また、牛乳由来成分(カゼイン)及びパラベンが含まれている歯磨き粉は、牛乳由来成分(カゼイン)及びパラベンに対してアレルギーのある方は使用することができません。

アレルギーがある方は、成分表を確認しアレルギー物質を避けるようにしましょう。アレルギーによるアナフィラキシーショックが起こると、蕁麻疹や痒みなどの粘膜・皮膚症状や呼吸困難、急激な血圧低下による意識消失などが起こる危険性があます。

歯磨きの基本

歯磨きは、磨きにくい場所から始めるのがおすすめです。右利きであれば、右側の方が磨きにくいので、右の奥歯から順に磨いていきます。前歯に移るときは犬歯の辺りで手を返しますが、その辺りは磨き残すことが多いので、手を返したらもう一度少し奥に戻って磨きます。1か所を20回以上、歯並びに合わせて磨きましょう。また、歯磨きをする際は下記のポイントに注意することが大切です。

① 毛先を歯の面にあてる

⇒歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目、歯と歯の間に、きちんとあてることが大切です。
・歯の頰側
歯ブラシの毛先が歯の表面に対して90度になるようにあて、汚れをこすり取るように小刻みに毛先を動かして磨きます。
・歯の舌側
歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目に対して斜めにあて、汚れをこすり取るように小刻みに毛先を動かして磨きます。
・歯周病が進んでいる場合
歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目に対して、45度程度の角度であてて、歯の根元に出来た歯周ポケットの中の汚れをとるように細かく動かします。

② 軽い力で動かす

⇒力を入れて磨いても、汚れは落ちません。歯ブラシで歯磨きをするときは、力を入れ過ぎないようにすることが大切です。過剰に力を入れて磨くと歯ブラシの毛先が開いてしまい、毛先の部分で汚れをからめとることが十分に出来ず、逆に磨き残しが多くなってしまいます。また、過剰な力が歯や歯茎に加わると、歯茎が下がって歯の根元が露出する歯肉退縮(しにくたいしゅく)や、冷たいものがしみる知覚過敏が起こることがあります。いったん歯肉退縮が起こると、自然に回復するのは難しいので注意が必要です。歯磨きをするときの適切な圧力は150g程度といわれています。鉛筆で書いた文字を消しゴムで軽く消すときの力加減で歯磨きをすると良いでしょう。

③ 正しい持ち方で小刻みに動かす

⇒洗面所の鏡を見ながら歯を磨いても良いのですが、手鏡で口元に注目しながら磨いた方が、歯ブラシの動きに意識が集中するので確実に磨けます。歯ブラシの毛先が、ちゃんと歯と歯茎に触っていることを、目で見て確認することが大事です。歯は1本1本小刻みに磨くことで効率よく歯垢(プラーク)を除去できますが、歯ブラシをグーの形で握ると肘を動かすことになるので、小刻みに動かすのが難しく、過剰な力も入りやすくなります。そこで、ペンを持つような持ち方にすると歯ブラシを手首と指先で動かすことになるので、力を入れなくても細かい動きがしやすく、角度もつけやすくなります。5~10mmの幅を目安に小刻みに動かし、1~2本ずつ磨くのが良いでしょう。また、唾液や泡が出るからといって、唇を閉じて歯を磨くことは良くありません。余分な泡と唾液が邪魔をして、しっかり磨けないからです。お口の中に溜まった唾液は、適度に吐き出しながら歯を磨きましょう。

④ 自分に合った歯ブラシを選ぶ

⇒歯ブラシは、ヘッド(頭部)=植毛部、ネック(頸部)、ハンドル(把柄部)からなっています。植毛の1つの毛束をタフトといいます。ヘッド(頭部)の横幅を列、縦の長さを行といって、タフト(毛束)の数で表しています一般的に、歯ブラシのヘッド(頭部)の長さは、前歯2本分といわれています。これは、親指の幅とも同じです。歯ブラシを買うときは、店頭に並んでいる歯ブラシを手に取ってみて、親指の幅におさまっているかどうかをまず確認しましょう。
・ヘッド(頭部)の植毛は3列
・ヘッド(頭部)がコンパクトである(親指の幅)
・毛の固さはやわらかめ~普通、または固め
・ハンドル(把柄)はまっすぐでシンプルなもの
特にトラブルのない健康な歯茎の場合は、毛の固さは普通~固めを選びます。歯茎が赤く腫れて出血している場合や歯周病がある場合には、やわらかめの毛を選びます。歯周病の場合は、毛先が極細の歯ブラシも使いましょう。歯ブラシを常に新品同様の状態に保つには、1ヵ月ごとの交換が理想的です。せめて、3ヵ月に1回は交換しましょう。歯ブラシの毛先が広がってきたら、すぐに交換のサインです。同時に、歯磨き圧が強いということなので気をつけましょう。

⑤ 歯磨きのタイミング

⇒「食べたら磨く」とよく言われていましたが、最近では、食べた直後からしばらくの間は、お口の中がまだ酸性になっていて歯がダメージを受けやすい環境にあるので、15~30分ほど経ってから磨いた方が良いという考えもあるようです。この30分間は、自然に唾液がお口の中の酸を中和するのに必要な時間です。しかし、唾液の分泌が正常でない人の場合は、なかなか酸が中和されず、虫歯になりやすい酸性の環境が長く続くので、食べたらすぐに磨くことが必要といわれています。このように、お口の中が酸性でも歯磨きをするのであれば、あえて30分間待つ必要はないのかもしれません。考え方を変えると、食後すぐに磨くことにあまりこだわらなくても良い、ということがいえます。また、歯磨きをすると、その刺激で唾液がたくさん分泌されるので酸の中和が早まり、黙って待っている時間は必要ないともいえるでしょう。

⑥ 歯磨きの時間

⇒磨く時間は「3分間」が浸透していますが、きっちり磨くとプロの歯医者さんがやっても15分以上かかってしまいます。歯ブラシで1ヵ所を少なくとも10回以上こすらないと、歯垢(プラーク)は落とせません。熟練していない人の場合は、もっと時間がかかるので、一律に何分間という基準はありません。必ず何分間磨こうと堅苦しく考えずに、1日の中のどこかでしっかり磨けるタイミングを見つけてください。食べるということは、食事以外に間食も含まれます。「食べたら磨く」を徹底すると、1日に4回も5回も歯を磨くことになります。可能であれば構いませんが、無理なときには食べた後にお茶を飲むなど、食べかすと虫歯菌を洗い流すことを習慣にすると良いでしょう。

歯磨きの工夫

歯を磨くときに大切なのは、まず口の中を鏡でよく見て、自分の歯の形や歯並びをよく知ることです。口の中には複雑な凹凸がたくさんあります。奥歯の溝や歯と歯の間、歯と歯茎の境目など、歯ブラシが届きにくいところは磨き残しが多いので、とくに意識して、1本1本丁寧に磨くようにしましょう。

① 凸凹歯並び

⇒歯並びに凹凸があると、その部分に歯ブラシが届きにくいものです。歯ブラシを縦にして、1本ずつ磨きましょう。下の前歯の裏側は、唾液の分泌腺があり、歯垢(プラーク)がつきやすい場所です。前歯の裏は歯ブラシを縦にして、毛先を歯の裏にしっかり押し当てて、上下に動かして磨きましょう。下の前歯の裏側は、歯ブラシのかかとを使うと上手く磨けます。前歯の凸凹している歯は1本1本に歯ブラシを縦にあてて毛先を上下に細かく動かしましょう。

② 背の低い歯

⇒奥歯周辺は歯ブラシが入りにくく、磨き残しの多い部分です。奥歯に届きやすい歯ブラシを使うのがおすすめです。奥歯の背の低い歯に対しては、歯ブラシを斜め横から入れて歯に沿わせながら、細かく動かしましょう。また、嚙み合わせの溝は、できるだけ細かく丁寧に磨きましょう。

③ 歯と歯茎の境目

⇒歯と歯茎の境目は、歯ブラシの毛先が届きにくいので毛先を入れ込むようにして磨くのがポイントです。歯茎に対しては45度の角度に毛先をあてて歯ブラシを5mm幅程度で動かしましょう。境目に毛先をななめに当てて、小刻みに動かすことで歯茎へのマッサージ効果もあります。

まとめ

歯にはいろいろな形があり、生えている場所に合わせた歯ブラシのあて方と動かし方が必要です。磨く順番を決めるのも、磨き残しを作らないための良い工夫です。正しい磨き方が習慣になるまでは、鏡を見ながら歯磨きをすることが大切です。歯ブラシには、その形と材質によって磨ける部分が限られています。どうしても歯ブラシで磨けない場所の歯垢(プラーク)を取り除くには、歯ブラシ以外の補助用具と鏡で確認することが不可欠です。自分の歯と歯茎の状態に合わせた成分のものを選びましょう。しかし、どんなに頑張ってもセルフケアには限界があります。そのため、ぜひ専門家の力も活用して、自分の歯の健康を守っていきしょう!