妊娠中から守る赤ちゃんの歯
こんにちは、お口の学校です。
生まれてくる赤ちゃんの歯を守りたい、虫歯にしたくないとお母様やお父様は思いますよね。そこで今回は、妊娠中からできる赤ちゃんの歯を守るためのポイントをお伝えします。
妊娠中の赤ちゃんの歯の形成過程
赤ちゃんの歯はいつから作られるかご存じでしょうか?実は妊娠中から赤ちゃんの歯は作られ始めるのです。
妊娠7週頃から赤ちゃんは、乳歯の芽となる歯胚(しはい)が作られます。歯胚の形成の始まりは、口の中の上皮細胞の分裂です。最初は小さな細胞ですが、分裂・増殖を繰り返していくとエナメル質や象牙質のもととなる細胞に成長していきます。妊娠10週ぐらいまでの間に合計20個の歯の細胞が並び、妊娠12週頃から乳歯の石灰化(=硬くなること)が始まります。赤ちゃんが生まれた頃にはもう乳歯の頭の部分はできている状態で、ほとんど完成に近い歯の形となって歯茎の中に隠れているのです。そして産まれた後は永久歯の石灰化も始まります。
妊娠中のお母様の健康状態や、体内に取り入れられる食事の内容が赤ちゃんの歯にも影響を与えやすいので、次は赤ちゃんの歯を作るのに必要な栄養素についてお伝えします。
赤ちゃんの歯を作るのに必要な栄養素
赤ちゃんの歯の強さは、歯の石灰化がいかに進んだかによって決まってくるといわれています。そのため妊娠中の方は、歯の石灰化を助けるミネラル成分、つまりカルシウムとリンが多い食事を積極的に摂るよう心がけると良いでしょう。妊娠中はバランスの良い食事を摂ることが大切ですが、赤ちゃんの歯を作るのに必要なカルシウムやくリンだけでなく、たんぱく質、ビタミンA・C・Dの栄養素を含む食品をバランス良く摂取することが大切です。
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カルシウム・リン
虫歯になりにくい歯の条件は十分な硬さを持っていること、つまり歯胚の石灰化が重要です。石灰化を助ける栄養となるのがカルシウムやリンです。1日に必要なカルシウムの量は、通常600mg以上と言われていますが、妊娠中はそれ以上の900mgを摂取すると良いでしょう。特に歯胚の石灰化が行われる妊娠12週頃からは、意識して摂取するようにしましょう。
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たんぱく質
歯のもとになる歯胚の形成には、たんぱく質が必要になると言われています。歯胚が作られ始める妊娠7、8週目頃から妊娠3か月頃の期間は、たんぱく質を積極的に摂取することを心がけましょう。
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ビタミンA
ビタミンAは、エナメル質と呼ばれる歯の表面の部分の土台を作るために欠かせない栄養素です。また、口腔内の粘膜を強くする働きがあります。しかし、妊娠初期にビタミンAを摂取しすぎると、お母様と赤ちゃんの体に悪影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中のビタミンAの過剰摂取には気をつけましょう。
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ビタミンC・D
ビタミンCは歯の象牙質の土台を作ります。ビタミンCが不足すると倦怠感、疲労感、気力低下の症状がみられるようになり、欠乏に至ると血管がもろくなり、出血しやすくなるともいわれています。ビタミンDはカルシウムの吸収率を高めてくれることから、骨に良い成分とされています。歯胚の石灰化においてもカルシウムの吸収を助ける働きがあるため、積極的に摂取しましょう。
要するにカルシウムとリンは、歯の石灰化のための材料に、たんぱく質は歯の基礎となり、ビタミンAは、歯の表面のエナメル質の土台となり、ビタミンCは、もう一層下の象牙質の土台となり、ビタミンDはカルシウムの代謝や石灰化の調節役となります。カルシウムの代謝に必要なビタミンDは食品からだけでなく、一日のうち少しでも太陽を浴びることも必要です。牛乳が飲めない妊婦さんは牛乳のほかにカルシウムを多く含んだ食品として豆腐、納豆、卵、魚(いわし、めざし、わかさぎ、海老など)がありますので、これらの食品を食べるようにしましょう。ただし、カルシウムに限らずバランスよく食べること、適度の運動を行い妊娠中のストレスを溜めず、妊婦さんが健康であることが大切です。
また、妊娠中は赤ちゃんに酸素を運ぶために血液の量が増えます。酸素を運ぶ赤血球のもととなる鉄分は、多めに摂取するように心がけましょう。鉄分は吸収しにくいので、赤身の魚や肉(マグロの赤身、牛肉)に含まれる吸収しやすい鉄分がおすすめです。安全で美味しい食べ物を良く噛んで、栄養を効率良く吸収するようにしましょう。
妊娠中に気をつけるポイント
・妊娠中の歯周病
妊娠すると、ホルモンバランスの変化により口腔内細菌の運動が活発になったり、一部の歯周病原菌細菌が増えたりする影響で、虫歯や歯周病にかかりやすくなるといわれています。これは、もともと歯のトラブルが少ない人や、年齢に関係なく起こり得ることです。歯茎が腫れている、歯磨きのたびに出血するなど、気になる症状があれば妊娠中でも早めに治療を受けましょう。妊娠中期から後期(妊娠16週以降)になると、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの働きが活発になります。そのため女性ホルモンの増加に伴い、歯茎の出血や発赤、腫脹(妊娠性歯肉炎)が起きやすくなります。出産後少しずつ元に戻りますが、しっかりとした口腔ケアで炎症を最小限に抑えることができます。歯周病による炎症は血流によって全身に影響を及ぼすため、進行すると、低体重児や早産のリスクが高くなることが報告されています。早産や低体重児出産は新生児死亡につながる可能性が高いこと、脳性麻痺、知的障害、てんかん等の重い障害を負うことが多いこと、長期の入院から親子の愛情障害が発生し児童虐待のリスクがあること、高血圧や糖尿病等の生活習慣病になりやすいこと、さらにはNICU等における長期間の高度医療を必要とすることなどが挙げられます。妊娠したら歯科健診を受診し、適切な治療や指導を受けましょう。母子健康手帳にも「むし歯や歯周病などの病気は妊娠中に悪くなりやすいものです。歯周病は早産等の原因となることがあるので注意し、歯科医師に相談しましょう。」と記載されています。
・妊娠中の喫煙
喫煙するとニコチンによって身体の免疫機能が狂わされ、またタールの影響で歯に歯垢(プラーク)が付着しやすくなります。免疫機能の崩壊と歯垢(プラーク)の付着、どちらも歯周病になるリスクを高める要因であり、喫煙している人が歯周病になると、本来起こるはずの歯肉の腫れが見た目上では起こらず、そのため歯周病になっても病気を自覚できず、いつの間にか進行を許してしまうのです。妊娠中の喫煙は、母体はもちろんお腹の中の赤ちゃんにも悪い影響しかありません。出生時の体重減少や流産、早産、周産期死亡率の上昇の原因ともなり、赤ちゃんの催奇形性を呼び起こすともいわれています。悪影響を及ぼす要因は大きく一酸化炭素とニコチンに分けられ、一酸化炭素は赤ちゃんの酸欠状態を引き起こす原因と考えられています。通常であれば酸素とヘモグロビンが結合して赤ちゃんへ酸素を運びますが、一酸化炭素は酸素の約300倍の速さでヘモグロビンと結合するので、その結果赤ちゃんに酸素が運ばれず、酸欠を引き起こしてしまいます。ニコチンは母体の血管を収縮させ、子宮や胎盤の血液量を著しく低下させます。 要するに喫煙は赤ちゃんへの酸素の供給を減らし、赤ちゃんの発育を妨げるもととなります。そのほかにも煙草に含まれるシアン化合物には毒性があり、発がん性や催奇形性があるベンツピレンも赤ちゃんの成長に何らかの影響を与えると考えられています。また、お母様自身が喫煙しなくてもお父様や同居されているご家族、職場の同僚などの喫煙によって煙を吸ってしまう受動喫煙にも注意が必要です。実は受動喫煙の方が赤ちゃんへの影響は大きく、ニコチンの濃度は3倍にもなるといわれており、低体重児の出生リスクが高まります。お母様の歯や赤ちゃんの健康の為にも、妊娠中に限らず喫煙はしないことをおすすめします。
・悪阻時期の歯磨き
食後ではなく一日のうち体調のよい時間で、気分が落ち着いた時に歯磨きをしてみてください。歯磨きの時は、下の方を向いて前かがみの体勢になり、ハブラシを舌に当てないようにすると嘔吐感を避けやすいです。ハブラシは小刻みに動かしましょう。また、口の奥に歯ブラシをいれると苦しい場合は、小さな歯ブラシを使用すると楽になります。それでも辛い時は、液体歯磨きの使用も検討をしてみると良いでしょう。悪阻で吐き戻しがあった場合は、お口の中が胃液などで酸性に傾いているのでうがいをするだけでも違います。グレープフルーツやレモンなどの酸っぱいものを好んで食べるようになった方にも、うがいはおすすめです。
・妊娠中の歯科受診
母子健康手帳と一緒に交付または案内がある歯科健診の受診票ですが、いつ行けば良いのか迷ってしまう妊婦さんが多いようです。体調が安定したら仕事などの調整をして、なるべく早めに受診して歯の健康状態をチェックしてもらいましょう。受診の際に、妊娠週数や妊娠経過で気になること(悪阻が続いている、お腹が張りやすい等)があれば伝えておくと、安心して治療を受けられます。持病や飲んでいる薬があればそちらも必ず伝えましょう。虫歯治療ではレントゲン撮影や麻酔などの薬剤を使うこともあるので、まずは妊娠中であることをしっかり伝えることが大切です。きちんと伝わっていないとお腹の赤ちゃんに影響のある薬を処方される恐れもあるので、予約時、受付時、診察時に都度きちんと伝えることを忘れないようにしましょう。 妊娠中の歯科治療については安定期(16~27週)であれば簡単な手術や処置は可能です。治療せずに感染や疼痛をそのままにしておくほうが、妊婦に与える影響は大きいと考えられます。なお、妊娠前期は奇形を発生させる可能性があるので、応急処置のみにしましょう。また妊娠後期(28週~)では、急激に血圧が低下する仰臥位性低血圧症候群を引き起こすことがあるので、体調に合わせ緊急性がない場合は無理せず産後に行うことも考えましょう。
・キシリトールの摂取
虫歯菌はキシリトールを取り込んでもエネルギーにすることができないため、次第に虫歯菌の数は減少していきます。妊娠中にキシリトールガムを摂取した方が赤ちゃんの虫歯菌の感染率が低下したとする報告もあります。ただし、キシリトールはたくさん摂取すると腸内細菌のバランスを崩し、下痢をしやすくなります。同様に口腔細菌のバランスも変化し、耐性菌など新たな問題が起こる可能性があります。また、味覚形成の上から、甘党になるなどの指摘もあり、積極的利用を疑問視する意見もあります。まずはお母様の口の中をきれいに保つことが重要です。
・妊娠中の生活習慣
赤ちゃんの歯は妊娠中から作られ始め、母体の健康状態や栄養状態が赤ちゃんの歯の形成に大きく影響します。要するに妊娠中の食生活が、赤ちゃんの歯や味覚をつくるもととなるのです。赤ちゃんの味覚形成も妊娠中から始まり、羊水を通して味覚を形成しています。羊水の味や成分はお母様の食事が影響するともいわれますので、妊娠中の食生活には気をつけましょう。生まれてきた赤ちゃんが口の中の問題で悩まないように今できることは、お母様を含めた家族全員が、口腔内の健康に注意を払い、口腔内をきれいに保つようにすることで、生まれてきた赤ちゃんも安心してその一員に加わることができるでしょう。食べ物のだらだら食べをなくし、食後の歯ブラシの習慣も身につけて、規則正しい生活を送ることが大切です。 あわせて、家族それぞれにあった歯磨きの仕方を歯科医から学び、新しい家族のためのお口の環境つくりをしておきましょう。虫歯になりやすい歯並びや、歯の質、唾液の性質など、遺伝的なものも確かにありますが、それよりも赤ちゃんが育つ環境に左右されることが多いものです。家庭での食事や飲み物の与え方、歯磨きなどの生活習慣が赤ちゃんの虫歯の要因をつくります。また虫歯菌はお母様から赤ちゃんに伝播することが多いですので、妊娠中にお母様の生活習慣の見直しも行い、赤ちゃんが生まれてから困らないようにしましょう。
出産後は育児や家事に追われ、自分の時間をつくることは難しくなります。お腹の中の赤ちゃんの歯の健康のためにも、妊娠中の口腔ケアは大事にしましょう。そして赤ちゃんが生まれたあとは、親子で口腔ケアを実践していきましょう!