噛む力でつくる歯並びの土台

2023.12.04

こんにちは、お口の学校です。

近年食生活の変化により、よく噛まずに食べ物を飲みこんでしまう子どもが増えています。日々成長する子どもの顎は、よく噛むことで発達します。逆によく噛まないと顎が十分に成長せず永久歯が生えてくるスペースが狭くなり、結果としてガタガタの歯並びになってしまいます。今回は噛む力の大切さについてご紹介いたします。

歯並びの悪い子どもが増えているのはなぜ?

最近の子どもたちの永久歯のサイズは、以前より大きくなっているといわれています。ところが、顎の骨は進化の影響で小さくなる傾向にあります。つまり、狭いスペースに大きな歯が押し込められるので、デコボコとした歯並びになりやすいのです。こうした問題には遺伝などの影響もありますが、それ以上に普段から正しく咀嚼が行えているかどうかが大きく関わっています。子どもによく噛む習慣をつけてもらうには、普段の食生活から見直していく必要があります。しかし、現代人は食べものの嗜好が歯ごたえのないものに変わってきており、現代の食事はファーストフードやインスタント食品、またハンバーグやオムライス、スパゲティなど、あまり噛まずに飲みこめてしまうものが中心です。昔に比べると食事にかける時間・咀嚼回数がおよそ半分程に減少しているという研究報告もあります。たとえば、怪我をして足をしばらく使わないと足の筋肉は細く弱々しくなってしまいます。それと同じように顎も噛む回数が減ると、筋肉や骨が十分に成長できずに、結果的に顎の骨が小さくなってしまうのです。逆に顎の骨が発達しすぎると、エラが張って顔が大きくなりすぎるのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その心配はありません。厳密にいうと、歯の土台となっているのは歯槽(しそうこつ)という骨です。しっかり噛むと歯槽骨は発育しますが、下顎角(かがくこつ)いわゆるエラが張ってくることはありません。むしろ、歯槽骨がきれいなU字形に発達すれば、口元は美しく見えるといわれています。一方、発育不足の歯槽骨はV字形で、U字形に比べて距離が短いために歯が並ぶスペースが不足して、結果的に歯が押し合ってデコボコの歯並びになってしまうのです。

よく噛んで食べることのメリット

●唾液が分泌される

よく噛むことで、唾液の分泌量が増えて、お口の中の汚れを洗い流してくれます。さらに口内がきれいに保たれることで、虫歯予防の作用も期待できます。食事の消化や吸収がよくなるというメリットもあります。

●健康な歯をつくる

噛むことで分泌される唾液は、歯を強くして口の中を清潔に保って虫歯を予防します。

●顎を発達させる

噛む動作で顎の骨が大きく強く育つと、永久歯に生え変わった時の歯並びがよくなります。顎の発達は体全体の筋肉にも関わり、歪み防止や姿勢のよさにもつながります。

●食べ過ぎを防げる

たくさん噛むことで満腹中枢が刺激されるので、食べすぎを防ぐことができます。近ごろでは子どもの肥満が話題になっていますが、よく噛むことは肥満対策としても意味があります。

●味覚の発達

よく噛むと食材そのものの味をしっかりと味わうことができ、味覚が発達します。きちんと噛める子は食べられる食材が多いため、栄養バランスも整えやすいです。

●脳の発達、気持ちが落ち着く

よく噛むことは脳の発達やストレス・緊張の緩和にもつながります。よく噛むことで脳が刺激され、血流がよくなり活性化されるのです。また、緊張をやわらげる化学物質が増えるので、気持ちが落ち着きリラックスできます。気持ちを落ち着かせて集中力を高める、ストレスをおさえてリラックスできるなど、噛むことにはたくさんの効果があることがわかっています。

●永久歯が生えるスペースを確保する

小さな乳歯から大きな永久歯への生えかわりには、口の中に乳歯期以上のスペースが必要になります。このスペースは成長とともに顎が発達していくことで確保されますが、なんらかの理由で顎が十分に発達していないと、生えてきた歯同士が押し合ってガタガタになり、歯並びが悪くなります。

顎が発達しない原因のひとつとして、よく噛まないことがあげられます。よく噛むことで顎周りの筋肉が刺激を受け、その刺激によって顎の骨が成長します。逆によく噛まないと筋肉が使われず、顎も成長していきません。きれいな歯並びとなるよう、よく噛む習慣をつけてあげましょう。また、よく噛むことを意識し始めるのは、4歳〜5歳くらいがよいでしょう。赤ちゃんはお母様のお腹の中にいるときの指しゃぶりや生まれてから母乳を吸うことで、噛むトレーニングを行っています。乳歯が生えそろう2歳〜3歳ころまでには噛むための準備ができ、5歳〜6歳になる頃には噛む力がついてきます。ですから、噛むための準備が整ったあとの4歳〜5歳くらいから噛む習慣をつけておけば、その後本格的に食べ物を噛むようになったときにしっかりと噛めるようになります。

顎の骨を成長させるポイント

固いものを食べるときには、顎を上下、左右に動かして噛みますが、あまり噛まずに飲みこめる食事が中心となった結果、最近の子どもは上下にしか噛めなくなっています。顎の発達には、左右の動きも大切です。子どもが噛んでいる様子を注意深く観察し、食べ物をすり切るように顎を左右に動かせているか確認してあげましょう。この際、片側の歯だけを使っていると左右の顎のバランスが悪くなってしまうので、左右両方の歯を万遍なく使えているかも注意してください。

●噛む食品をごはんの中に取り入れる

あまり噛まずに飲みこめてしまう食生活を変えずに、子どもによく噛みなさいといってもなかなか難しいですよね。そこで普段の食事の中で、噛む回数を増やせる食材を使用してみましょう。食材選びにあたっては、固さに加えて噛みごたえがあるかどうかを意識するとよいでしょう。

<噛む回数を増やせる食材の一例>

根菜:たけのこ、レンコン、にんじん

葉物:ほうれんそう、小松菜

果物:りんご、梨

いも・豆:さつまいも、大豆、いんげん

ナッツ:ごま、アーモンド、くるみ

魚介:煮干し、昆布、わかめ、干物、貝

●食材の調理法を工夫する

使用する食材選びとともに、調理法を工夫することでも噛む習慣をつけられます。

<よく噛むための調理法の一例>

・普段は細かく切っている食材を少し大きめに切る

・野菜は繊維を壊さない方向を意識し、繊維に沿って切る

・生で食べても問題ない食材は火を通しすぎず、少し歯ごたえが残るよう調節する

・皮つきのままでも食べられる食材は、皮つきのままにする

また、子どもが好きなハンバーグに根菜を混ぜてみる、スパゲティの具にイカやアサリを加えるなど、子どもが好む普段の食事に少し食材をプラスするだけでも噛む回数を増やすことができます。

●食事中の姿勢や雰囲気に気をつける

食事をする際の姿勢も、よく噛む習慣に関係します。足がブラブラと浮いてしまう椅子ではふんばりがきかず、顎に力を込めることができません。そこで、子どもの両足がしっかりと床につくようなテーブルと椅子を用意してあげます。どうしても難しい場合には子どもの足の高さに踏み台を置くか、足元の高さが調節可能な子ども用のイスを選ぶとよいでしょう。また、食事中の雰囲気も噛むことに影響します。叱られながら食べていると、大人でも俯いてしまいますよね。感情を素直に出す子どもたちならなおさらです。項垂れて猫背になると下顎が動かせずうまく噛むことができませんので、子どもには楽しい話をさせるようにしましょう。それはすごいね、と子どもを褒めながらみんなで楽しく食事をすれば、子どもたちは自然と胸を張るので姿勢がよくなり、しっかり噛んで食べられるようになります。食事中の姿勢や雰囲気に気をつけ、頸椎(けいつい)をまっすぐにして正しい姿勢で食べるよう心がけましょう。

●強さより回数を重視して噛む

よく噛むこととは、たくさん噛むことを意味します。噛む強さよりも回数を重視するようにしましょう。顎を動かす回数を増やすことで、顎まわりの血流がよくなり筋肉が刺激され、顎は成長してきます。回数の目安は、1口につき30回ですが、30回も噛むのは大人にとっても少し難しいことかもしれません。子どもが楽しみながら噛む習慣をつけられるよう、楽しく数えてあげるなど工夫してみましょう。どんな食材でもよく噛んで食べれば、顎の骨が丈夫にかつ大きくなります。唇を閉じて、右の奥歯で10回、左の奥歯で10回、口の中の食べものを両側に振り分けて左右一緒に10回というように、左右バランスよく噛むことも意識しましょう。

●水分で食べ物を流しこまない

食事の際に、水やお茶、牛乳を必ず一緒に出すご家庭もあると思います。しかし、これでは水分で食べ物を流し込めてしまうので、あまり噛まずに飲みこむ癖がついてしまいます。お子さん自身で気をつけることは難しいので、飲み物を食卓に出す順番を工夫するなどして、食べ物を飲みこんでから水分をとる習慣をつけてあげましょう。

●おやつを歯ごたえのある食べ物にする

食事以外に、おやつでも噛むトレーニングができます。今まではチョコレートやケーキだったものをおせんべいにしてみたり、するめや煮干など噛めば噛むほど味が出てくるものをおやつにしてあげたりするのもよいでしょう。また、茹でた枝豆やりんごなどの果物をおやつにすれば、健康を意識しながら噛む習慣をつけることができます。

よく噛むというと、歯ごたえのある固い食べ物を食べさせれば良いと思ってしまいがちですが、実はそれは間違いです。子どもが噛み切れる固さの食べ物を、奥歯で左右均等にゆっくり優しく噛むことが、お口まわりの筋肉の発育に適した正しい噛み方です。大人が当たり前のように行っている噛む行為ですが、生活スタイルや環境の変化によって上手にできない子どもが増えています。噛むことは綺麗な歯並びにつながりますし、他にも様々なプラスの作用が期待できます。普段の生活を少しだけ見直すことで、お子様の顎の成長を助けることができます。ほっそりとした顎や小顔は憧れの対象にもなりますが、それによって歯並びが悪くなってしまっては、将来子どもの悩みの種を増やしてしまうことになりますよね。矯正などの選択肢もありますが、まずは普段の生活から歯並びをよくすることを意識し、よい歯並びを目指していきましょう。